糸作りの最初の工程 紡績 その1

以前聞いた話、お魚がスーパーに並ぶ切り身の姿で海を泳いでいると勘違いしているお子様がいるらしい。
そういうお子様方に伝えねばいかん。「糸は紡績されて紙管に巻かれた状態で畑に生えているのではないですよ」と。(写真が紡績されて紙管に巻かれた糸です。)

天然繊維は素材にもよりますが、短ければ2~3cm長ければ10cmとかのワタの状態で収穫されます。これを数千メートルもの糸にする加工が紡績なわけですが、これをもう少しだけ詳しくお話ししてみたいと思います。(この話は長くなるので何回かに分けて記事にしたいと思います。)

天然繊維の紡績は原材料となるワタの仕入れから始まります。この原材料の良し悪しが糸の出来不出来を大きく左右します。良いワタがあれば良い糸が出来るとは言い切れませんが、良くないワタでは良い糸は出来ません。(「良い」の定義とか、難しい話はここではスルー。)

およそ工業というものは出来るだけ多くのものを均一な品質で作ることに主眼を置いています。一つ一つの商品の仕上がりにバラつきがある方が良しとされる技術もありますが、それは工芸と呼ぶ方が適切でしょうか。

均一にものを作るということのためには原材料の品質が安定していることが重要です。紡績で言うと、ワタを構成する一本一本の繊維の太さや長さが安定していることが望ましい。そして、長さは長いもの、太さは細いものが業界的には良いとされます。この安定した原材料を目利きして購入してくるところからすでに紡績メーカーさんの実力が試されていたりするわけです。

しかし、いくら上質な原料だとしても畑や牧場から収穫してきた原料がいきなり均一に揃っているわけじゃないので、紡績の初期の工程でこのワタを均一化させます。

ワタの長さを揃えて短すぎたり太すぎたりするものを除去するカーディングという工程があり、ここできれいに整えられるかどうかが糸の良し悪しを決定付ける大きな要因になります。巨大な金属製の板(実際は円筒状のローラーですが)に無数の針が立っているものが2枚、針のある面が向かい合うように設置されていて、その針と針の間にワタを通していく。この時の針の上を通すスピードや向かい合う針と針の隙間の広さを調整することで、ワタの均し加減を調整します。

紡績することを「糸を挽く」という場合もありまして、これはコーヒー豆を挽いたり挽き肉を挽いたりの「挽く」と同じ意味で、要するに砕いて混ぜて均一化していくことです。ここの実力が最終的な出来上がりに直結することは、コーヒーにしても挽き肉にしても同じことで、挽き加減のうまく調節できる紡績工場さんは上手な工場さんといっても差し支えないと思います。ちなみに、糸にも「荒挽き」というのがありまして、文字通り荒く挽くことすなわち混ぜすぎないことなんですが、大量に糸を紡績しても荒さの程度が均一であることが求められるあたり、荒く挽く場合にもやっぱりカーディングの高い技術が要求されます。

糸屋家業としては仕入先である紡績工場さんがカーディングの技術に自信を持っていること、その設備のメンテナンスに力を入れていることが分かると非常に安心します。

何事も最初が肝心ということで、糸作りも初期の工程でいかに原料を整えるかが大事なわけです。

今日はここまで。

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