この編地は強撚糸を丸編みの生地に編んだものです。
一見すると淡いトーンのボーダー状に見えるこの生地、実は単一色(ソリッド)に染めた糸を編んだものです。
単一色で編んだはずがボーダーになっている、つまり染めムラが発生しているということです。
強撚糸というのは撚りが強く入った糸で、丸編みというのは直径60~80センチほどの筒の円周に沿って針が並んだ編み機を使って生地を編む編み立て方法のことです。
丸編みでは一度に沢山の糸を立てて一斉に編むので、その中の何本かに色ムラがあると上の写真のようにボーダー状に色の段が発生してしまいます。
今回の事例は強撚糸で起きました。
この強撚糸というものを染めることは実は難しく、この手の染色ムラによる問題が実は結構起きます。
強撚糸には他にも斜行が起きやすいという問題がありまして、こちらは撚糸の条件設定の問題なのでその発生の仕組みについてはまた別の機会に書いてみたいと思います。
今回は染色ムラについて。
そもそも強撚糸に限らず普通撚りの糸でも染色ムラは発生しますし、リネンやウール、ポリエステルなど素材によっても様々な原因によって染めの問題は起きます。
その中で強撚糸の染色ムラの発生原因として顕著なのは、糸の縮みによるソフト巻きの密度の影響によるものです。
これらはソフト巻きと呼ばれる形状に糸を巻いてチーズ染色した糸です。
ソフト巻きという言葉の通り糸を柔らかく巻いてあげる巻き方で、巻きの密度を下げて糸と糸の間に隙間を沢山作ることで染料その他の薬剤が全体に均一に行き渡りやすくします。
手にもった感じはふわふわで、慎重に扱わないと形状が崩れてしまう場合もあります。
巻きの直径は様々ですが、外径20センチ程度のバウムクーヘンのような形に巻くのが一般的です。
強撚糸というものは文字通り強い撚りが入っているので、糸が締め付けられて密度が高い状態になっています。
また、糸に沢山撚りが入っていると糸自体が縮みやすくなり、染色工程で水を吸わせたときに繊維自体が収束してソフト巻きにした糸の巻き密度が高まります。
程度は様々ですが巻き直径が10%ほど縮んで、カチンコチンに硬くなってしまうなんてこともあります。
そうなると、染色のための様々な薬剤、界面活性剤や漂白剤、もちろん染料や緩染剤などの浸透を均一にすることが難しくなります。
もともと糸に強い撚りをかけるためには繊維長が長くて強い、いわゆる長綿や超長綿といわれるワタを使うことが多く、これらのワタは繊維長の短いワタよりも植物性の油分を多く含んでいる傾向があります。
この油分は均一な染色の妨げになるため精錬や漂白といった染色前の処理で除去する必要があり、長綿や超長綿の場合通常の糸よりもそれを慎重に行う必要があります。
ところが強撚糸であるためにそれが不安定になる。
これらの条件の為に強撚糸では染色ムラが発生しやすく、その扱いが非常に難しいというわけです。
まとめるとこんな感じ
強撚糸は染色用に柔らかく巻いても糸が縮んで巻きが硬くなってしまう
↓
巻きが硬いと各種薬剤が糸に均一に行き渡らない
↓
薬剤が不均一に行き渡ると漂白や染色にムラが発生する
これを上手にこなすためにはソフト巻きの硬さを調節して、糸が水を吸っても十分に隙間が出来るように巻いてあげるというのが一番手っ取り早い解決方法になります。
つまり巻きの硬さを調節する技術が、強撚糸を上手に染めるために重要なポイントになる訳です。
染色の技術というと化学的な処理の上手い下手を想像しがちですが、もっと基本的な糸を巻く技術が実はとても大事なのです。
基本の「き」というやつですね。