来春夏向けの糸の本生産が始まっていよいよ慌ただしくなってきました。
それに加えて先日の台風21号で当社倉庫の屋根が破損してしまい、その対応に追われて大忙しの毎日です。
この時期は2~3月に店頭に並ぶ商品のための糸オーダーが来ていて、それに合わせて4月以降の企画の試作も同時に進むので当社の試作用撚糸機もフル回転です。
当社ではリング撚糸機という機種を2台所有していて、それぞれが20錘立てになっています。
錘(すい)というのは上記の写真の管1本を表す単位で、この管が表裏各10本並んでいるので20錘立てと呼びます。
ちなみに本生産で多く用いられている撚糸機は120錘から200錘程度のサイズが一般的です。
このリング撚糸機の各錘にはスピンドルという軸心があり、このスピンドルが回転することで糸に撚りが加わる仕組みです。
このスピンドルはかなり高速で回転していて、リネンの2/36NM番手などを撚糸する場合は分速4000~5000回転で設定しています。
当社に撚糸機の見学に来られる方もいて、実際目の前で撚糸機のスピンドルが回っているのを見てそのスピードに圧倒される方も多いです。
しかしそのスピンドル回転の速さに反して、実際糸を撚糸するのにはとても時間がかかります。
たとえばリネンの2/36NM番手を撚糸するにあたって、1メートル当たり250回撚糸する必要があるとします。
スピンドルは1分当たり5000回転で回っているので250回転の撚糸回数で割り返すと、1分当たり20メートル撚糸できることになります。
1分で20メートル。
撚糸工場で働いている人でなければこの数字だけではピンと来ないはずです。
2/36NM番手の糸は1kg当たり18000メートルです。
つまり2/36NM番手のリネンを1kg作るためには18000÷20=900分必要です。
900分は15時間なので、1日当たり7時間半稼動して丸2日間かかるということです。
1日だと500gしか出来ない。
当社の機械が20錘なので20×500g=10kg。
120錘だと60kg、200錘で100kg。
大量生産用とされる200錘の撚糸機でも月間20日稼動で2000kg程度しか出来ないことになります。
もちろん夜間に回したり早起きしたり、時には休みの日も機械を回したりしてそれ以上の生産量を確保していきますが、1日24時間という限界は決まっているのでどうあがいてもそれ以上は生産できません。
当社には2台の試作機があるので1日当たり20kg程度は作成できます。
その中でお客様から依頼されたサンプルや、自分たちが新しく開発した商品のサンプルを効率よく作っていくわけです。
撚糸回数を適当に決めて適当に作った糸は斜行します。
斜行する糸ではちゃんとしたニット製品が出来ないので、撚糸を調整しなおしたり作り直すようにお客様から依頼されたりして、いわゆる二度手間となって効率は圧倒的に落ちます。
そうならないために当社ではとにかく1回目でしっかりと安定したものを作ることを前提として、全てのロットの斜行試験を済ませてから撚糸をします。
品質をきっちり管理することが、結果的に二度手間を省いて効率を上げるわけですね。
今回はリング撚糸機のお話をしましたが、それ以外にも糸巻きや染色なども時間と手間のかかる工程が多く、とにかく糸作りは地味で地道な作業の連続です。
華やかなアパレル産業を支えているのは、こういった地味な仕事のたすきリレーなのです。