毎朝のミーティングを終えて事務所に戻ると母親がこんなものを見せてくれました。
毎日新聞の朝刊に入っていた紙面で、山形県米沢市の洋服作りを特集した記事のような作りになっています。
タイトルは画像の通り「米沢の服作り革命」。
見出し横の小さな写真部分には、米澤藩がかつて「出羽の米澤織」で財政を立て直したことによって、織物の産業が米澤に定着したというようなことが書かれています。
よくある繊維産地の取り組みについての記事なんだろうな、というのが最初の印象でした。
ところが、本文が始まるや否や最初の一行に、「「J∞QUALITY」という衣料品などの認証制度をご存知だろうか?」とある。
この時点でいきなり「ありゃ?」とは思いましたがとりあえず読み進めてみます。
記事の内容を要約すると、
J∞QUALITYの認証を受けたTSIソーイングという縫製会社が昨年米沢に工場を建てましたよ、
そこには最新設備があるからコスト削減出来てて競争力も高いですよ、
さらに地元米沢の生地で製品を作ってるから地産地消にも成功してますよ。
という感じ。
記事の中では織物メーカーさんや整理仕上げの工場さんなども紹介されていて、この工場ではこんな技術でこんな素晴らしい生地を作り、その生地でこんな素晴らしいコートを作ってますよというようなことが説明されている。
メインで取り扱われている縫製工場の平均年齢が34歳で、日本人ばかり91人が働いているとかなんとか、なるほど繊維の産業でもこんな規模で新規投資を行っている会社があるのかと感心しました。
さて次のページは?と広げてみると、中面見開き両ページにでかでかとコートの写真が4枚、ブランド名と商品単価、問い合わせ先までしっかり掲載されている。
それと、なぜか紙面右上に雅楽家の東儀秀樹さんの趣味の話や最近の活動などのインタビューが紙面の4分の1ほどを割いて掲載されている。
東儀秀樹さんが趣味でエレキギターを作っているという話にはとても興味が沸いたけれども、ファッションの話や米沢市にまつわる話なんかは全く出てこなかった。
なにこれ?と思いながら、とりあえずそれぞれの商品の説明をざっと読んでみると、4つのコートのうち右ページ(東儀さんの下)2つは米澤織で作られていることが書かれているけれど、左の二つには米沢産地のことには全く触れられていない。
そしてまたこれ、
よく見たら各商品にそれぞれJ∞QUALITY認証番号なるものが書かれている。
そして更に裏側を見てみるとこれ。
そうか、米沢市の繊維産業の特集じゃなくてJ∞QUALITYの広告やったんやね。。。
やりくちがまるで青汁のテレビCM番組のようじゃないか。。。
そもそもTSIソーイングという名前の時点でなんか気になるなぁとは思ってました。
TSIとは東京スタイルとサンエーインターナショナルという2つのアパレル企業が合併して出来たTSIホールディングスのことですよね。
その子会社のTSIプロダクションネットワークの工場がTSIソーイングなんですよね。
そんで、J∞QUALITYを認証しているのはアパレル企業が何社か集まって作った団体ですよね。
そこの役員にTSIの社長さんが名を連ねておられるんですよね。
なんともはや。
山形県の人たちが地域の伝統産業復活の為に頑張ってる話かと思ったら、アパレル企業が自分たちで立ち上げた財団法人の宣伝でした。
そもそもこのJ∞QUALITYというのが日本製の衣料品に与えられる認証なわけですが、日本製だからなんなのでしょうか。
日本製であるからクオリティが高い、だから商品の価格が高い、ということを言いたいのでしょうか?
日本製のアパレル製品の品質が海外製品より上回っているかどうかと聞かれると、正直海外で作られたものの方が質が高いのではないかと思うケースも沢山あります。
なぜなら、海外の工場の方が設備も新しくスタッフも若く、圧倒的に沢山の洋服を作っていて経験豊富だからです。
日本製であることを無条件にありがたがる日本人がまだまだ大勢いることはなんとなく想像できますが、今更まだこんなことにこだわって新聞に紙面広告を打ってるなんて。。。
日本で活動している様々なメーカーさんたちが独自の技術や強みを持って頑張っています。
そのなかに当社もいるはずで、少なからず自分たちの取り組みに誇りをもっています。
けれども、少なくとも当社は自分たちに誇りを持っているのであって、「日本製」に誇りを持っているというわけではありません。
以前にもこのブログで書きましたが、このJ∞QUALITYを認証している団体メンバーのアパレル企業の殆どが、自社製品の大半を海外で生産しています。
その罪悪感からこんな団体を設立したのか真意は分かりませんが、日本製を声高にアピールする立場にある方々なのでしょうか。
今日はいろんなことになんだかモヤモヤする、そんな「いい服の日」でした。
同感です。私も帰省時に母から渡されました(笑)
特集記事への私の違和感は、藩財政を支えた米沢織を伝統としている点にもあります。江戸時代の織物幅は小幅。しかし、特集記事に掲載された写真の織物幅は広幅です。近代の産物を江戸時代と認識している点が間違っています。胡散臭い特集でした。
>>1
コメント有難うございます。
自社の新しい工場やそこで作られる製品をアピールしたいのは分かりますが、そこに言葉巧みに伝統産業を絡めようというやり口はちょっといただけないです。
伝統なんていう重い言葉を安易に使っても、その情報を受け取る人たちには微妙な違和感がばっちり伝わってしまうんだと思います。
都心部ではない場所に若い人たちが充実して働ける場所を作ったということや、先進的な取り組みを推進しています、ということを分かり易く伝えるだけでよかったんじゃないかなと思います。