リネン糸の最終工程、潤紡。(水を使います)

リネン糸の紡績もようやく最終工程の精紡段階です。

プレボイリング、プレブリーチ等の加工を終えた粗紡は水にぬれたまま精紡工程に進みます。

精紡とは粗紡の状態を引き伸ばして撚りをかけて糸にする工程で、これが紡績の仕上げの段階になります。

この時に糸を水で濡らしながら精紡するのがリネン紡績の特徴で、この方法をウェットスピニングと呼びます。日本語に直すと潤紡です。(誰が訳したのかは知りませんがこの翻訳が割と好きです。水紡とか濡れ紡じゃなくて潤紡というのがなかなか良い響きに感じます。)

わざわざ糸を濡らしながら精紡するのはリネンの組成に理由があります。

リネンが他の植物性の糸と大きく異なる点としてペクチンと呼ばれる天然の糊の成分を多く含んでいることにあります。

植物性の繊維は本来セルロースという高分子で構成されています。コットンはもちろん木材パルプを原料として作られた再生繊維のレーヨンもセルロースで出来ています。

リネンもこのセルロースを中心に構成された繊維です。しかしセルロース以外にペクチンという糊の部分を多く含有しておりこのペクチンがリネン特有の清涼感や光沢を維持するのに一役買っているのです。

短繊維はその名の通り短い繊維のことを意味しています。短い繊維を束ねて繋げたものが糸になるわけです。この短繊維で作られた糸の特徴として、それぞれの繊維の端っこの部分が糸の表面に露出して毛羽のようになる点があります。

ウールやコットンの表面に細い繊維の毛先が露出していることで手ざわりがソフトに感じられます。

この毛羽の露出を出来るだけ少なくしてあげることで手ざわりは逆にサラッとして清涼感を増します。

毛羽を減らすための方法としては糸の表面をガスの炎で炙って毛羽を焼いてしまうやり方や、毛羽を糸の中心にねじ込んで表に出にくくする方法などがあります。

コットンやウールなど繊維の種類によってそれぞれに適した方法で毛羽抑えの加工方法も異なっていて、紡績各社機械を改造したり調整したり様々な企業努力を行っています。

リネンの場合この毛羽を押さえるために、素材そのものが持っている糊の成分を利用するわけです。ペクチンと呼ばれる糊は水にぬれるとふやけて柔らかくなり、乾燥すると固まってシャキシャキになるという特徴があります。

この特長を生かすために紡績機械の一部に水を充填する箇所を設け、そこに糸を浸しながら糊を柔らかくし精紡していく設計になっています。

精紡された糸はその後乾燥されて仕上げられますが、この時にペクチンが固まって糸の表面の毛羽が押さえ込まれてようやくリネン糸が完成するという仕組みです。(ようやくリネンの糸が出来上がりましたねぇ、あぁ、長かったな。)

糊によって毛羽の押さえられたリネンは手触りがシャキシャキするだけでなく表面に天然の艶と光沢も出ます。

夏物素材としてリネンが活躍するのはこのシャキシャキの清涼感と光沢感が好まれてのことだと思います。

当社でもリネンを染色する際できるだけこのペクチンを残して染めるようにしています。こうすることで素材本来の持つ魅力を損なわないようにしたいと考えているからです。

さて、ここ数日ひたすらリネンの説明を書き連ねてきました。正直なところ、企業秘密があって書ききれないこともまだまだ多々あります。

繊維関係の方以外にはぜんぜん興味の沸かない話であったり、糸屋さんにとってもほぼ意味のない話もあったりのような気もしましたが、自分が今まで勉強してきて覚えた知識を一度まとめたいと思っていたので数日に渡ってこの記事を書いてみました。

誰かのお役に立てば何よりです。

コメントを残す