自社の商品や糸作りの説明をしていると時々マニアックだといわれます。
商品説明の際に披露する知識が微細な点に及んでいることについて、おそらくお褒め頂いているのだと思って聞き流しています。
その場で必要の無い薀蓄めいた知識を嬉しがって喋ってしまうことも多いので、その辺りがマニアっぽいのかもしれません。
しかし、物事を専門的に知っていることはその分野に従事している人間にとって必要不可欠のことだと思っています。
自身が係る様々な分野について出来るだけ多くの知識を身につけることは新しい商品開発に役立つと思っていますし、何かしらの問題が発生した時に解決の近道を見つけ出すのに有効だと思っています。
自分がまだ知らない加工技術の話や素材の話など、もしくは今何が流行っていてどんな服が売れているのかといった話は自分にとってはいつも興味深く、そういったことを出来るだけ色んな方から教えていただきたいので、専門的な分野に知識を持つ方と話しをするときは、自分は全然知らないので出来れば詳しく教えて欲しいというスタンスを取るように心がけているつもりです。
そして、身につけた知識は出来るだけ他の人、特に自分よりも若くキャリアの短い人に沢山伝えていきたいと思っています。
よく言われることですが知識は荷物にならないのでいくら持っていても場所をとらないですし、経験不足の人間が経験豊かな他者と戦っていくには知識や人脈などがとても重要だと思うからです。
その際気をつけているのが、「私が教えてあげますよ」という上から目線のスタンスにならないことです。
「自分の知識としてはこの通りです。」という感じでウィキペディア的に自分が知っている範疇のことだけお伝えしていますというニュアンスを加えるようにしているつもりです。
糸屋として仕事をしていると沢山の分野の方と協業することになります。
紡績、撚糸、染色、製織、編み立て、整理、縫製、もちろん糸商やOEMによる生産会社やアパレル企業の方
とも関わりがありますし、場合によってはボタンやネーム等の付属パーツ屋さん、海外輸出のためのフォワーダーさん、もちろん銀行や税理士などの方と事務的なお話をすることもあり、とにかく種々様々な業種の方とお付き合いがあります。
色んなキャリアを持った色んなポジションの方々とお付き合いしているわけですが、時々自分のことを「私はプロなんだから」といってご自身の考えを強く押し出してくる方がいます。
ある時のこと、人づてにご紹介いただいたテーブルメーカーの方と丸編みの生地を作る機会が有り、まずは顔合わせ兼ねて食事をご一緒することになりました。丸編みの業界で30年以上仕事をされているというベテランの方でした。
会話の中で何度も「私は様々な経験をしているからどんな注文にも対応できます」「自分の生産背景で編めない生地はありません」「丸編みのことはいくらでも教えてあげますよ」というようなことを仰っていたので、これは頼りになる人だと思ってお仕事を依頼しました。
こちらで必要な糸を用意して先方に送り、納品数週間前から何度か進捗を問い合わせ、その都度「進めています」という旨の返事を頂いていました。
納品前日になって未だに出荷明細も来ないので、さすがに不安になって問い合わせたところ「生地の指示内容が明確じゃないからこれでは現場が作業できません、柄の色数を変更するか編み段の巾を変更する必要があるのでそれを先に決めてください」といった風なことを回答されました。
あわてた我々はお客様に状況を説明し、大至急別の工場を探し、糸を返送してもらって何とか対応しました。その際至急に生地を作っていただいたメーカーさんは、こちらの希望の色数と編み段の巾どおり寸分の誤差なく生地の柄を出してくれました。
別のあるときは、自分は麻糸のプロだからリネンの加工については何でもご依頼くださいというベテランの糸メーカーさんとお話をし、ではということで糸を送って加工依頼し返送されてきた糸を編んだらとんでもない斜行が出てしまう。
どうやって撚糸したのかその方に問い合わせてみても、企業秘密だから教えられないとのこと。企業秘密とは本来他社から見て魅力的な技術について使う言葉ではないのかと思いましたが、そのあたりのことは突っ込まずにその方とのお付き合いはそれきりになりました。
こういった例は他にも本当に沢山あります。
そもそもプロフェッショナルとはなんぞやということになるんですが、そういう言葉の定義はこの際置いておきます。
自分はプロだから自分に任せて置けばよいという大風呂敷を広げた以上、見えないところでどれだけもがいてくれても良いからこちらが期待した結果を導き出して欲しいです。
せっかく身につけた知識や豊かな経験を、自分に都合の悪い状況になった時にもっともらしい言い訳をするために使っているようでは全く意味が無いと思います。
そんなことなら始めからプロだ何だと大きなことを言わなければ余計なトラブルも抱えなくて済むのに、というのは皮肉が過ぎるでしょうか。
ともかく経験上今まで出会った「プロ」を自称する人の大半がこんな感じなので、私はその手の人がちょっと苦手です。