世の中には高機能で高品質な洋服がいっぱいあります。
機能性ではユニクロのヒートテックが有名でしょうか。人体から発生する水分を熱に変換する機能を活かした冬場にも暖かいインナーシャツで、いわずと知れた大ヒット商品です。
実際これが売れ始めた後、大手量販店がほぼパクリじゃないのかというような類似品を発売しまくりました。
恐らくそれらはヒートテックほど認知されていないし、実際の売り上げもヒートテックには及ばないのじゃないでしょうか。
言葉は悪いですがいわゆる二番煎じを作って他社が追いかけ始めた時には、既にユニクロのCMがテレビでバンバン流れてマーケットにはヒートテックが周知されており、その時点で既に1枚目のヒートテックを購入して満足している人たちが次に買うのはやはりヒートテックになるのだろうと思います。
もしかしたら追従者の商品の中にはヒートテックよりも安価なものがあるかもしれません。
しかし、吸水発熱インナー=ヒートテックという認知をマーケットに植えつけた時点で既に勝負はついているわけです。
面白いのは吸水発熱繊維ということだけで言えばヒートテックよりも何年も早くにミズノが開発したブレスサーモという素材が既に存在していて、ミズノもわりと一生懸命それを宣伝していたということです。
我々糸屋にもある時期ミズノのブレスサーモを使って何か素材開発できないかなという問い合わせがありました。
その時は汗を吸って発熱するんじゃ余計暑くなるんじゃないの?と思ったくらいでほとんど関心を持たなかった記憶があります。
そういえばあれは今どうなっているのかな?と思ったのでネットで検索してミズノのサイトを見てみたら松岡修三を起用してブレスサーモをガンガン宣伝していました。
発売開始の時期を見てみるとヒートテックが2003年発売開始でブレスサーモは1994年に発表されているので、10年近く前からミズノが販売していた技術なのです。
ではなぜブレスサーモが認知されなくて、ヒートテックはあんなに売れたのかというと、単純に見せ方の違いだけだと思います。
以前ユニクロといえば安物の代表選手でしたが今ではユニクロで十分オシャレであるという認知に変わりました。
これはもちろん商品のデザインや作りが良くなったこともありますが、テレビCMなどでイメージを一新したり店舗の作りがおしゃれになったり有名デザイナーとコラボしたり、とにもかくにも彼らが「自分たちはオシャレなのですよ」というメッセージを大々的に広めることに努めた結果だと思います。
ヒートテックにしても多少のノウハウを感じさせるプレゼンテーションはあるにせよ、テレビCMではその暖かさのイメージを伝えることに重点が置かれていて、技術的な説明はほとんどされていません。
これ着てれば冬でも家族でお出かけしやすいですよ。多少寒くてもみんなで外に出かけましょうよ。
もしくは、これ着てればアウターの選択肢が広がるからオシャレがしやすくなりますよ。
というようなことなんだと思います。
そこで自分たちのTシャツについても思いを巡らせてみました。
もともとTシャツを企画するときに自分自身どんなものが欲しかったのかというと、どんなに雑に扱ってもいつも綺麗でどこにでも着ていけるような便利なものだといいなということです。
学生時代から一人暮らしが長く、洗濯して乾いた衣類をたたまずに、取り込んだそばからまた着るということが多かったです。
脱いだシャツはくしゃくしゃのまま洗濯カゴに入れて洗濯機の水流の強弱を気にすることも無く、もちろん洗濯ネットに入れるなんてことはしない。
デニムやら綿パンやらのゴツゴツした衣料品と一緒に洗濯機で回すのも当たりまえ。
そうやって使っていても割りと長持ちするTシャツだけがずっと残っていて、気がついたら5年以上着ているなというものがたまにありました。
そんなTシャツを自分で作りたいと思ったわけです。
その為にはいったいどう作ればよいのか色々と勉強して糸を作り生地を作り、これは良いものが出来そうだとなっていくうちに、この覚えた知識や技術をみんなにも知ってもらいたいなと思うようになりました。
けれどもそれは本来の大事なこととはすこし違うんですよね。
大事なことはどんなものが欲しかったのか、どう使ってもらいたくてその技術を学んでいるのかなのだと思います。
どこにでも着ていけるTシャツというのは、さすがにビジネスシーンでもとか冠婚葬祭でもという意味ではありません。
例えば家でごろごろする時に着るとしたらどんなものが良いだろうと考えると、柔らかで肌触りが良ければリラックスしやすいだろうと思います。そしてソファーやカーペット、畳などの固い素材の上でごろごろするなら生地はしっかりしていなければすぐにへたってしまうでしょう。
建築現場や工場などで働く職人さんが着るにはどうだろうか。汗をいっぱいかくから沢山洗濯するだろう。そしたら洗剤や柔軟剤に強い繊維じゃないと駄目だろうし、生地もかなり頑丈に作らないといけないだろう。
家族とのお出かけやデートなんかで着るにはどうだろうか。奥さんや彼女と外に出かけるのに衿や袖がヨレヨレのTシャツを着ていたら嫌がられるんじゃないのかな?色や形が変だと一緒にいる女性が恥ずかしいかもしれないから、少しくらいはオシャレな要素もあったほうが良いよな。
職人さんが仕事で着られて休みの日は部屋でも着られて、それをお出かけにも着られるようなTシャツなら凄く便利じゃないか!それ作ろう!と思うのです。
職人さんに限らず休みの日は草野球に興じる、子供たちと泥んこ遊びもする、オシャレなカフェでゆっくり過ごす。どんなシチュエーションにも着られるTシャツがあれば便利だろうと思います。
という具合にこれ1着あれば色んなシチュエーションで便利に着られるなというものを作るために、糸の撚り方や染め方、生地の編み方などを工夫して作らなければいけないということで、技術や知識はあくまでもそのための手段なのです。
どんな時にも着ていたいTシャツ。
東大阪繊維研究所はこれを作りたいわけです。
それを作るための技術や知識は必要条件だと思
っているので、そこの研究は怠らずにいつでも高めていかねばと思っていますし、品質の良さの根拠になる部分は嘘が無いようにしなければいけないと思います。ちゃんと技術的な根拠があって着心地がよいのですよという説明は何かの形で伝える必要もあると思います。
今回上げた写真は品番HOFI-003ペルー綿のTシャツに使用した生地の、日本紡績検査協会で取得した試験データです。洗濯後の布目曲り、寸法変化率ともに0.3%。これは洗濯しても0.3%しか歪まないし縮まないですよというデータでめったなことでは型崩れしないですよということの根拠の部分です。
このデータは私たちにとっては非常に誇らしく、なかなか出せない優秀な数値だと思っています。
けれどもそこじゃないわけです。
何をやっても型崩れしないから、部屋着として日々着てもらっても洗濯すればまたお出かけに着ていけますよといいたいわけです。
我々技術屋はとかくそのノウハウを自慢してしまうところがありますが、本当に伝えたいことを間違わないようにしないといけないですね。
東大阪繊維研究所のウェブサイトやその他の販促資料も、そういったことを伝えるために少しずつ手直ししていかなければと思ってます。
けれども、このブログだけは基本的に何でもありで書きたいことを自由に書こうと思っているので、相変わらずマニアックな技術の話もどんどん書いていこうとは思っております。
ご容赦くださいませ(笑)。