一時期繊維やアパレルの業界で「誰がアパレルを殺すのか」という本がよく話題になっていました。
タイトルはなかなかに刺激的ですが、中身は「古いビジネスが新しいビジネスに取って替わられるんですよ」というわりと普遍的なテーマの本です。
本の内容に少し触れてしまいますが、その取って替わられる側の代表選手が百貨店及び商品を主に百貨店で販売しているアパレルブランドであるということです。
昔は百貨店で買い物をすることがステータスであったり家族のレジャーのひとつであったけれど、その文化が廃れて百貨店でわざわざ買い物をする人がいなくなりつつあり、特に地方の百貨店の衰退振りが目立つというようなことが書かれていました。
その指摘の通り、私の地元大阪府八尾市の西武百貨店も今年の2月に閉店しました。
ちょうど私が小学校の低学年の時に開業した百貨店で当初は昔の百貨店らしく屋上に遊園地があったりして、たまに家族で西武に行くことが子供心に非常に楽しみだった記憶があります。
その跡地に新しく入ったのがLINOASという商業施設です。
グランドオープンと謳った9月から段階的にいくつかのテナントがオープンし始めて11月がセカンドオープンということで、ようやく建物全体の8割方が営業開始した感じです。
そのセカンドオープンの段階で開店した無印良品に行ってみたところ、非常に工夫を凝らした店作りになっていて久しぶりに買い物が楽しく感じました。
基本的な商品ラインナップは衣料品や文房具、家具、食器など他店の無印良品と違うところも無く、良くも悪くも無印良品らしいシンプルで使いやすいものが並んでいます。
けれども売り場そのものが従来とだいぶ違う造りになっています。
洋服のコーナーの中に唐突に本棚が置いてあります。
そしてその陳列されている本のジャンルがちょっと工夫されています。
例えば子供服売り場にちょっとした休憩スペースがあり、ベンチと本棚があって本棚には絵本と子供服の作り方が書かれたソーイングブックがある。
その本の横には大人向けの服の作り方のコーナーが有り、そこから視線を下にやるとカラーコーディネイトの本、その隣には日本古来の色の図鑑があって、その下には世界の文様がまとめられた図鑑がある。
ひとつのことに興味が引かれたら、それに近い別のトピックが提案されて数珠繋ぎのように色んなものが見られるのが楽しくてどんどんと本を手にとってしまう。
その本棚は大きな柱の一面に据え付けられていて、柱の別の面にもまた本棚が有りそこにはまた別ジャンルの本が数珠繋ぎのように並んでいる。
通常の書店ではジャンルごとに手芸、料理、雑誌、文芸書などと分けて陳列されていますが、ここの本棚には本来異なるジャンルだけれど全く無関係でもないという本が上手に関連付けて並べられているわけです。
同じように調理器具のコーナーには料理本の本棚が有り、そこにも料理以外の本が色々と並んでいる。
もちろんそれらの本も売り物で、各本棚のそばにベンチがあるのでとりあえず中を少し読んで気に入ったら購入できるようになっています。
店内には本棚のほかに小さな子供が遊べるキッズスペースのような場所が有り、木製で丸みを帯びた材料で作られた柵で囲われていて、その囲いの中に木製のおもちゃが色々と置かれている。
そのキッズスペースは子供服売り場とメンズ、レディスの売り場の新商品コーナーの真ん中に設置されていて子供の様子をチラチラと見ながら品物を見ることも出来るようになっています。
その他にもいろいろと陳列の仕方に工夫がなされていて、同じストールが雑貨の売り場にあったり洋服とコーディネイトされて売られていたり、家具コーナーの家具の上にちょこっと置かれていたり。
無印良品そのものが生活提案型のお店なので元々こういう展示方法や販売方法を行っているのですが、そこに色々と遊び心のようなものを加えて「見せる」努力をしようとしているのがよく分かりました。
前回のこのブログで小手先の技術云々と書きましたが、この無印良品の「見せ方」は小手先の工夫がとても大事なことなんだという良い例だと思います。
置かれている書籍や商品は既存のものですが、その隣に何を置くのかどこに置くのかによって買う人の使い方への想像力を膨らませることも出来るし、何よりもお店の雰囲気がなんだか楽しいからまた来ようと思ってもらうことが出来ます。
この「楽しい」がとても重要なんだろうと思います。
「モノ」ではなく「コト」や「体験」を売る時代なんだということがマーケティングの専門書にも書かれていたりします。
実は閉店前の西武百貨店にも同じく無印良品のお店が入っていました。その店舗は良くある店構えで良くも悪くも典型的な無印良品のお店でした。
文具は文具、衣料は衣料でまとめて並べてあり、見やすくて買い物がしやすい分お客さんも必要なもののあるコーナーにいって必要なものを手にとってすぐにレジに行く。
滞在時間が短いからお店側からすると「ついで買い」の需要が生まれにくいというデメリットがあったのだと思います。
お店からすればお客さんには長くお店に居てもらい出来れば余計なものまで買ってもらえるとありがたい、というのが本音だと思うので今回の新しい無印良品の店舗アレンジはその点でとてもよいと感じました。
奇しくも旧来の百貨店と新しい商業施設の違いがこの無印良品を通じて鮮明に見えた気がしましたし、売り場の工夫で同じものでももっとお客さんを呼び込めるのだと改めて感じました。
新しい無印良品の売り場をブラブラしながら「ここにアパレル産業の販売停滞を打開するヒントがあるかもなぁ」などと感じつつ、結局余計なものを色々と購入して帰ってきた次第であります。