さて、繊維業界には昔から「歩引き取引」というおぞましい文化がありまして、これは簡単にいうと
お客様が商品の代価をちょっと少なめに支払うシステム
です。
わけが分からないでしょ?
違う書きかたでもう一度簡単にご説明しますと
1個¥1,000の商品を販売すると、お客様から¥980支払ってもらえるシステム
です。
分かりましたか?
¥1,000の商品に対して¥980が支払われるんです。
一般の人にとってはいまいちピンとこない話かと思いますが、繊維業界の人はほぼみんな分かっている話です。
実は繊維業界には請求額に対して客先が少し減額して払う「歩引き現金支払い」というふざけた取引方法があるんです。
なぜこんな馬鹿げた(というか違法なんじゃないか?)というような支払いシステムがあるのかといいますと、「約束手形で支払う代わりに現金で払ってあげてもいいけど、その代わりちょっと少なめに払いますね」というのがどうやらこの支払い形式を生み出した根本の考え方のようです。
それが嫌なら取引をやめてもいいんですよ、という話にまでなるのかどうかは分かりませんが。
早い話が仕入先を見下してるわけですよ。
下請け保護法が施行されて以降、こういった取引形態を是正していこうということで経済産業省が指導を行っていて、平成30年6月には繊維関連4,800社を対象に歩引き現金での支払いをやめるように文書で通達しています。
では現状がどうかということで一番上の画像。
令和2年1月17日に経済産業省が発表した「繊維産業の現状と経済産業省の取組」という書面の一部です。
面白いですね。
発注側、つまり支払う側の75.7%が「既にちゃんと支払ってますよ」といっている。
受注側、つまりお金をもらう側の53.3%が「改善されてませんよ」といっている。
なんじゃこりゃ。
令和の時代になってもこの業界の駄目さはぜんぜん変わっておらんではないか!!
ということで、お客さんが勝手に減額して支払うシステムが我々の業界にあるんです。
信じられないでしょ?
昨年に私自身が経験した話。
とある大手アパレル企業から大口の発注をいただき、原材料を大量に仕込むことになりました。
当社から仕入先へは全て月末締め翌月末現金の支払いですが、そのアパレル企業から当社への支払いはは90日の約束手形。
当然当社の資金繰りがしんどくなる。
そのアパレル企業とは長いお付き合いをさせていただいていたので、状況をお話して何とか現金で支払っていただけないか相談に上がりました。
すると先方でもあらかじめそれを考慮していただいていたようで、打ち合わせ開始と同時に「今回は全部現金振込みしますよ」というありがたいお言葉。
それは助かりますということで、「その場合いくらか歩引きがあると思いますが、歩引き率は何パーセントになりますか?」とうかがったところ、「そんな支払い方法できませんよ、うちは上場企業なんで」というお返事。
「そもそもそんな支払い方法まだやってるところあるんですか?」とまで聞き返されてしまいました。
いやはやお恥ずかしい。
まだまだあるんですよ、繊維業界には。
そんなこんなでこのあたりの認識は川上と川下でもかなり乖離がありますし、世間一般と繊維業界ではさらに大きな乖離があるままのようですね。
インターネットやAIを活用した生産性向上とか、自社製品のブランド力強化とか、なんか色々とおっしゃっている繊維企業もありますが、そもそもこのわけの分からない支払い形式をやめてからの話でしょ?と思いますね。