リネン選びに失敗しないための余談的なお話

前回リネン紡績の前処理について書きました。

原料には一等亜麻のラインと二等亜麻のトウという種類があること。
原料を柔らかくするスカッチングと殻や芯を取り除くハックリングという2つの工程があること。

さてここでちょっと怖いお話です。

一般的に高級な麻糸とされるリネンにもトウと呼ばれる粗い質の原料が存在するわけです。ではこの粗い原料ではどんなものが作られているのかといいますと、実は世の中で市販されているリネン糸に入りまくっております。

リネンで比較的多く流通している番手は麻番手40番と60番です。

アパレルや繊維業界の人は良く知っているかもしれませんが、一般の方のためにちょっとだけ説明をしますと、この番手の数字というのが非常にややこしくコットン専用の番手やらウール専用の番手、手芸糸用番手、合繊用番手と各業界でそれぞれ勝手に基準を決めて番手をつけているために非常に複雑です。

そして麻業界もご多分に漏れず麻番手というものを採用しております。この番手表記ですが、ともかく麻番手の場合は数字が多きい方が糸が細いと思ってください。(この時点で既にややこしいんですが。。。)

一般に多く流通しているこの40番と60番ですが、実はここに品質の上で大きな開きがあります。60番はライン原料でしか紡績できないのですが40番はラインでもトウでも紡績可能なのです。

不思議なことにラインで紡績した40番、トウの40番、それらを混ぜた40番すべて同じもののような顔をして流通しています。コットンの場合は一応超長綿だとかコーマ綿だとか申し訳程度に表記していたりしますが、リネンの場合はそこについて表記されているものを見たことがありません。

ではどうやって見分けるかといいますと、これが魚市場の競りのごとく目利きで見分けるしかないのです。多くの流通業者が存在する繊維業界においては、そのリネン糸がトウで出来ているかラインで出来ているかを把握している関係者はごく少数です。

上質な原料かどうかは自分の目で見極めるしかないのです。

ここ1~2年は落ち着いた感がありますが、数年前に一時期リネンブームなる言葉があり国内のリネンの流通量が3年間で約1.4倍ほどに増えた時期がありました。

供給する紡績メーカーもそれにともなって大量の原料を仕入れる必要があります。けれどもヨーロッパで栽培される質の良い原料は限られている。特にライン原料は細い番手を生産するために確保しなければいけない。

そんな状況下で流通量の多かった40番手をいかに安定して生産するかが課題となり、トウ原料を駆使してでもなんとか供給しようという紡績メーカーが増えていきました。

従来は衣料用リネンの特にヨーロッパで紡績される40番手のほとんどがライン原料で生産されていました。

しかし中国メーカーの台頭によって価格が全体的に下がり、価格が下がると需要が増えていく。需要が増えるとまた工場が新設されて価格が下がる。しかしフラックスの原産地であるヨーロッパの作付面積や収穫高は大きくは増やせない。

そんな状況のなか、中国メーカーの技術向上もあいまって良くも悪くもトウ原料で安定的に40番手が生産できるようになっていったわけです。

この時期「独自のルートで安いリネンを入手したぜ!」と喜んでいる人がトウ原料の40番手をつかまされているというのを何度見かけたことか。。。

その後リネンブームの熱も下がり需要が減ったあとも40番手については玉石混交、ライン原料やトウ原料で作られたものが入り混じる状態で落ち着いてしまいました。

これに対して60番手はといいますと、このくらい細い番手になるとトウ原料では紡績できません。全部ライン原料です。もちろんハックリングまでされていないと紡績できないのでそれも担保されています。

なので目利きに不安がある方は60番手のリネンを使ってください。

ということで、今回はリネン原料にまつわるちょっとネガティブなお話でした。

次回はまだまだ続く原料の前処理と、潤紡とよばれるリネンの紡績方法について書こうと思います。

ちなみに麻番手60番は毛番手で36番ですが、これは綿番手21番です。本当にややこしくてすんません。お間違いのないように。

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