リネンの話が続きます。
ハックリングまで施したフラックス原料は紡績工場に運ばれます。
紡績工場に入荷された原料は綿紡績と同じくひたすら束ねて伸ばしてを繰り返されます。均一に伸ばして整えた原料が粗紡という状態で、この時点ではほぼ撚りがかかっていません。
リネン紡績が他の紡績と顕著に違うのはここからで、この粗紡の状態の原料を一旦湯通しまたは漂白する工程が入ります。湯通しをプレボイリング、漂白をプレブリーチと呼びます。
プレというのは「前の」という意味で、精紡して糸にする前に加工するからこう呼んでいます。
ホワイトリネンという言葉があり文字通り白いリネンの糸なのですが、これは精紡の前段階でプレブリーチされた糸のことを意味しています。
湯通し等の加工をせずにそのまま紡績する場合も稀にあって、その糸はグレイヤーンと呼ばれて一部の用途に用いられています。
湯通しされたリネン糸は不純物が取り除かれてベージュになるのに対して、湯通し加工なしの糸は土壌の土色を多く含んだグレイに近い色になるためにこの名で呼ばれているようです。
海外から輸入されたリネン糸のケースに「Grey」とかかれていたらそれはグレーに染められたいとではなく、湯通し加工のされていない糸である場合があるわけです。(今更言うのもなんですが、こんなこと糸屋さん以外にほとんど必要のない知識ですね。)
糸を精紡する前に湯通しや漂白加工をするのは原料のフラックスに伸縮性がなく紡績しにくい状態なので、加工によって粗紡を柔らかくして紡績しやすくすることが主な目的です。
コットンやウールの紡績にはこの工程はありませんがリネンの場合最終の精紡工程で水を使用するため、湯通しや漂白で原料が濡れてしまっても問題がないのでこの方法が有効になります。
ちなみに、湯通しだけのプレボイリング糸と漂白されたプレブリーチ糸ではプレボイリング糸の方が高価な場合があります。加工の上では漂白剤が用いられない分安価になるはずですがなぜでしょうか。
これはリネンの生成り色、いわゆる亜麻色に理由があります。
リネン製品を好む人の多くが素材本来の亜麻色と呼ばれるベージュ色をそのまま用います。このベージュ色を数トンという量で安定的に維持しようとすると、原料のフラックス選定から慎重に行う必要があります。
フラックスには土壌の成分を吸収しすぎて黒味がかったものもあれば、土壌の土色自体が薄いためにフラックス本来の黄色味がかったベージュが強く出るものもあります。
たとえば同じ紅玉という銘柄のリンゴを育てていても農家ごとの違いで赤みに違いがあるのと同じように、フラックスはあくまでも農作物なのでベージュの色が産地によってバラバラです。
これらを混ぜ合わせて、出来るだけ毎年同じような色に仕上げていくためにはちょうど良い加減にブレンドする必要があり、また出したい色に混ざるような原料を確保していく必要があります。
そのために亜麻色をそのまま糸に仕上げるプレボイリング糸のほうが手間がかかるので高価になるわけです。
ホワイトリネンは原料のベージュの色に多少のばらつきがあっても漂白工程で緩和されてしまうので、入ってきた原料を流れ作業で加工できるため効率が良くその分多少安価になります。
突き詰めた話をすればプレブリーチ用の原料の亜麻色もある程度一定のベージュ色に維持されている方が好ましいのですが、その話は更に専門的な内容になるので今回は書きません。
湯通しや漂白の加工をされた原料はいよいよ精紡という仕上げの段階に移されます。
潤紡と呼ばれるリネン独特の紡績方法です。
そこまで書きたかったんですが、長くなりすぎたので今日はここまで。