つい最近読んだ雑誌で「ギルトフリー」という言葉を見かけました。
ギルトは「罪悪感」、フリーは「~がない」という用法。
「罪悪感を感じずにいられる」という形容詞的な使い方をする言葉みたいで、私はこの言葉を全く知らなかったんですがどうやらすでにかなり定着している言葉みたいですね。
一昨年当たりから普及し始めた言い方らしく、カロリーや糖質を気にせずに食べられるスイーツのことを「ギルトフリースイーツ」と呼ぶパターンが多いみたいです。
その他、環境負荷の少ないパッケージで梱包されている商品なんかもギルトフリーのくくりに入るみたいです。
これ、いかにもファッション業界で使われそうなワードですね。
革製品を合成皮革にしたり、ファーをフェイクファーにしたりするのとかを「ギルトフリーレザー」とか「ギルトフリーファー」って言い換えてみたり。
なんでもかんでも流行ってきたらサクッと取り入れるのがファッション業界。
エシカルとギルトフリーは相性がよさそうですし、何かの形で出てくるかも。
それはともかく、
言葉を分かりやすくするというのはとても大事だと思います。
宇宙が巨大な爆発によって生まれたことを説明する「ビッグバン」という言葉があります。
実はそのビッグバンの直前、時間で言うと宇宙が生まれて10のマイナス36乗後から10のマイナス34乗後までのごくわずかな間に宇宙は急膨張します。
その膨張スピードは凄まじく指数関数的に巨大化したということから、この研究を行っていた日本の佐藤勝彦教授が「指数関数的膨張モデル」と名づけて論文を発表します。
ところがこの論文が発表された少し後、同じような内容の宇宙論をアメリカのアラン・グースという学者が発表したときのネーミングが「インフレーション宇宙論」。
「指数関数的膨張モデル」よりも「インフレーション宇宙論」の方が言葉としてキャッチーで使いやすいため、宇宙の初期膨張を説明するときはもっぱらこの言葉の方が使われるようになってしまいます。
結果的に宇宙物理学の書籍などでは「佐藤勝彦教授が提唱したインフレーション宇宙論」などと説明されるケースも増えてきていたりして、先に論文を発表した佐藤教授の心中やいかにといった感じです。
水戸黄門のテーマ曲にもありましたね、
後から来たのに追い越され。。。
まさにこれです。
言葉の力というかキャッチコピーの力というか、とにかく分かりやすいネーミングの方が勝つんです。
同じようなことに岡本株式会社の「まるでこたつソックス」というのがあります。
発熱素材を使ったあったか靴下のネーミングなんですが、これもともと「三陰交をあたためるソックス」という名前だったんです。
これがイマイチ売れずで泣かず飛ばずだったところ「まるでこたつソックス」に改名した途端に売り上げが17倍になったというわけです。
分かりやすい、伝わりやすい、イメージしやすい言葉を使うということがいかに大事かということですね。
ギルトフリーもそうです。
「糖質ゼロ」とか「ローカーボ」なんて言葉も十分に広まっていますが、これはあくまでも売り手サイドからのメッセージです。
うちの商品には糖質が入ってませんよ、炭水化物が少ないですよというメッセージ。
それに対してギルトフリーは買い手にたいして「あなたが罪悪感を感じる必要はありませんよ」というメッセージです。
同じようなことを伝えていますが、売り手目線ではなく買い手に寄り添った言葉としてこれが使いやすいんだと思います。
言葉や名前の力についての事例は上げればきりがありません。
それほどにネーミングやキャッチコピーというのはプロモーションにとって重要なんです。
私たちのようなものづくりを売りにする零細企業が商品を売り込むとき、どうしても自社が得意とする技術や素材のことを事細かに説明しがちです。
確かにそれも大事なんです。
けれどもまずその説明を聞き入れてもらうためには消費者の心の扉みたいなものを開けなければいけない。
そのためにわかりやすい、イメージしやすい、親しみやすいなどの強みを持った言葉がとても大事になります。
大手企業なら会社自体のネームバリューがあるので消費者はそもそも信用してくれるし、容易にメッセージを受け入れてくれます。
けれども私たちのような無名の企業の場合はそうはいきません。
どうしても最初は消費者との間に見えない壁があります。
それを打ち破るための言葉、ネーミング、キャッチコピー。
「ものは作れるけれども売るのがヘタ」だとよく言われる我々のような弱小企業にとって、これは非常に重要な課題ですね。