糸メーカーとTシャツブランドを両方運営していて思うこと。

東大阪繊維研究所というTシャツブランドを初めて5年が経ち、糸だけを販売していたときにくらべてお付き合いする人や業界がとても広がりました。

縫製業者さん、小売店さん、メディア関係の方々、我々と同じくファクトリーブランドを運営している工場さん、東大阪市の職員さんや関連団体の方々、同じ市内の異業種の方々など様々な分野の皆さんとのお付き合いが広がって、わがブランドもなかなか充実してきたなぁと実感する日々です。

ひるがえって糸作りの現場を見返してみると、近年はコロナの影響もあって紡績工場さんや染色工場さんがどんどん事業を縮小していたり、小規模で運営している撚糸工場さんもたくさん廃業していて、このままだと日本で服の材料を作れなくなる日もそう遠くないのでは?と感じてしまいます。

大手アパレルの倒産やブランド廃止のニュースは話題になりやすいですが、大手紡績メーカーの多くは以前からメインの事業を紡績以外に転換して業績を上げているところが多く、紡績部門を廃止したり縮小したりしても会社自体が倒産しているわけではないのであまり周知されません。

ましてや個人の撚糸工場さんの廃業なんてほとんど知られることはありません。

実際のところ、この数年で紡績部門を大幅に縮小している国内メーカーはかなり多く、当社でもTシャツブランドに使うものを含めてほぼ海外で紡績された糸でまかなっています。

中国の各工場がコロナの感染爆発のために動きが鈍くなっていることもあり、アパレル企業さんからの「日本製の商品を増やしたい」というお声も増えたのですが、正直なところ今の状況で日本製を新たに展開するメリットはかなり少ないんじゃないかと思います。

日本で作るのであれば素材も日本製にしないと輸送コストや納期の面でメリットが出にくいのに、日本国内の糸や生地の生産キャパシティーがあまりに足りず「数年前なら2ヶ月もあれば生産出来ていた生地が半年経ってもまだ上がってこない」なんて話を頻繁に聞くようになりました。

かといって、それを考慮してアパレル企業さんからのオーダーが早まるかというと、逆に在庫を少なくすることこそSDG’sだということで、極力オーダーをひきつけて短サイクルでモノづくりすることを望む客先の方が多いです。

Tシャツブランドを通じて知り合ったメディアの方々や小売り店さんたちも日本製であることは顧客に受けが良いと仰るし、自分たちも販売するに当たってそれは感じます。

国内のファクトリーブランドも「日本製」「メイドインジャパン」という言葉を前面に打ち出しているところが多いです。

しかし実際のところは少ないロットを採算ギリギリで作り、納期もむりやり間に合わせてどうにかこうにか「日本製」の看板を維持している商品が沢山あるように思います。

東大阪繊維研究所のTシャツは展示会受注を行わないので、そもそも納期に追われて作ることはありません。

もちろんある程度計画的に作りますが、ただでさえ納得いくまで糸から生地から縫製までひたすら試作を繰り返すので当初のスケジュールどおりにならない上に、上記のような生産キャパのトラブルもあって予定より出来上がりが遅れることもしばしばあります。

その結果「何でこのタイミングでこの商品なんですか?」と販売店さんに指摘されることも多くなんとか改善したいと思っていますが、いまのところ一番効果的なやり方は「もし出来上がったタイミングが遅かったとしたら、翌年の適切なシーズンまで出さずに置いておく」という判断になってしまいます。

けれどもそんなことをやっていたら資金繰りが追いつかないので、今はタイミングが少しずれているかなと思っても出来上がったときに販売スタートするようにしています。

自分たちでさえこんな状況なのに、展示会受注を取っている小規模アパレルさんたちはどうやって商品を間に合わせているんだろうか?と不思議に思いますが、そのあたりの話をすると暗い話になることも多いのであまり話題にしないようにしています。

私たちのような小規模で無名なブランドはブランド名のバリューが低いので、素材、作り、デザインどの面においても質の高い商品をご提供しなければいけない!と思いながら日々モノづくりをしています。

おかげさまでオンラインストアや実店舗のお客様から商品の良さについて褒めていただくことが増えてきて手応えを感じることが増えた5年間です。

その反面、糸や生地を作るための環境が大きく疲弊し、質の高い仕事がやりにくくなった5年間でもあったなと感じています。

「だからこそ自分たちが日本のモノづくりを支えていかなければいけない!」

とカッコいいことを言いたいところですが、われわれは正直なところ日本のモノづくりを支えられるほど大きな物量を動かしているわけでなないです。

なので、少なくとも自分たちが関っている工場さんだけでも持続可能であるように、そしてこの5年間に東大阪繊維研究所をTシャツを気に入っていただけた多くの方々に、引き続き最高の着心地を届けるようにしよう!と気を引き締めなおしています。

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