これまた最近良く聞かれる質問で、「カチオン化綿を使うと何でメランジに染められるのですか」というのがあります。
染色の話になると化学の要素がいっぱい出てきて話が急に分かりにくくなります。
仕事のミーティングのときにも出来るだけ簡単に話すように心がけていますが、自分自身きっちりと理解できていないことも多く、話しているうちに迷宮入りすることもしばしばです。
そもそも染料が繊維に染着するメカニズムについても実は全然解明されておらず、どの文献を見ても「~だと考えられている。」という結びのものがほとんどです。
今年も家の花壇の白い彼岸花が咲きました。「毎年変わらず立派に咲くもんだねぇ」と感心しつつ写真を撮ってみた後、気になって去年と一昨年の写真を確認してみたら驚くほどに日付が同じ9月18日でした。
彼岸花がなぜ毎年同じ日に咲くのか気になって調べてみても、これに明確な答えを返している人はいません。
飛行機が空を飛ぶメカニズムも実はよく分かっていないらしいし、宇宙の端っこやマリアナ海溝の底を見た人も誰もいない。
実のところ世の中には解明されていないことの方が圧倒的に多く、科学というものに突きつけられた課題は山積みです。
前置きが長くなってしまいましたが、なにせ染料の染着のメカニズムを含めてきちんと説明できないことが沢山ありすぎるので、カチオン化綿の染色について詳しい構造はひとまず脇において、今回は実用に沿う部分を簡単にご説明したいと思います。
一般的な反応染料の多くがセルロースと反応する際、セルロースがアルカリ処理されてアルカリセルロース化している方が共有結合による染着が起きやすいです。
これは裏を返すとアルカリ処理しないセルロースには染料が着き難いということです。
前回このブログでも書いたとおり反応染料はコットン以外の繊維にも染着します。これは反応染料の多くがアニオン系の色母体で成り立っているため、羊毛などのタンパク質が保有するアミノ基のカチオンとイオン結合するからです。
この2つのポイントを抑えて考えていくと、綿をアルカリ処理せずに染色できるように加工して普通の綿とブレンドすれば綿と綿で染め分け出来るようになるんじゃないの?という発想に至るわけです。
アニオン系の反応染料がカチオンに反応することを利用すれば、綿にカチオンを保有させてイオン結合によって反応染料を綿に染着できます。
綿をカチオン化するメカニズムについて、アニオン系染料での染色に関するものではないですが、綿のカチオン化の手順等についてはこの特許に出願されている内容が近いのではないかと思います。
改質セルロース系繊維材料の製造方法
https://patents.google.com/patent/JP2009074200A/ja
ともかく重要なのは、カチオン化綿は反応染料をコットンに通常の方法ではない形で染着させるための加工であるということです。
簡単に書くとこうなります
普通の綿 アルカリ処理して反応染料で染色
カチオン化綿 綿にカチオンをくっつけて反応染料で染色
つまりどちらも反応染料で染色しているわけです。
カチオン化綿だからカチオン染料で染めるのだろう。
だからアクリルを染めるカチオン(塩基性)染料を使えばよいのだ。
と勘違いしている人が多く、カチオンコットンを染めたら全く色が着きませんでしたという失敗をした人が割と沢山います。
カチオン染料で染めることの出来るポリエステルなどをカチオン可染ポリエステルなどといいます。
この「カチオン可染」という言葉になじみのある人が「カチオン化綿」と語彙の混同を起こした誤解から生じているのかな思います。
カチオン化したコットンと普通のコットンをブレンドしてカチオン化綿だけを染めると染め分けになるのですが、それ以外にも最近は糸表面だけにカチオン化を施し中白染めのようなものを作成する手法もとられたりして、カチオン化の技術はまだまだ色々と応用が出来そうです。
ただ、カチオン化に使用する薬剤の環境負荷が高く、海外でも中和・浄水処理の不十分な工場では加工が禁止されつつある点は注意が必要です。
「オーガニックコットンをカチオン化してメランジや中白にしたい」とか言わないように気をつけましょう。