木造日本建築と繊維機械の共存する空間が好きです。

中小規模の繊維加工場は日本建築の古い建屋の場合が多いです。

トラスト工法とか言うんでしょうか、建築のことは素人なので詳しいことは良くわかりませんが、機械を設置するのに必要な広い空間を木造建築で確保するのはとても難しい技術なんじゃないかと思います。

普通の家なら柱があるべきところに柱を立てられないから、力学的なノウハウを基に少ない柱で屋根を支える技術を駆使して、柱の無い広大な空間が木材だけで構成されているのを見るととてもワクワクします。

柱や梁などが木製だと、あとから棚を設置したり工具を引っ掛けるフックをつけるのもやりやすくて便利だったりします。

そして土壁。

適度な調湿効果もあり吸音効果もある土壁は、実は天然繊維のコンディションを一定に保ったり機械の駆動恩が外部に漏れるのを軽減したりするのに一役買っています。

仕上げの綺麗さにこだわりさえしなければ、比較的簡単に解体したり修繕したり出来るというメンテナンスのやりやすさも良いと思います。

柱や屋根が金属で壁がモルタルなんかだと機械の駆動音が共鳴してグワングワン鳴ったりするので、木造で土壁の建屋は狭い空間で機械を運転するのには案外理にかなっているのかなと思います。

もうひとつ中小の加工場によくあることで、新しい機械を設置するたびにに増築を繰り返した結果、まるで迷路のような複雑なつくりになっているのも割りと好きです。

製造業の加工現場の場合、本来は広い空間で動線もよく他の機械と干渉しないようにそれぞれの機械が設置されているほうが良いのかと思います。

けれども、中小工場がバブル期なんかに生産規模を拡大していく過程で、行き当たりばったりで建屋を増やして行ったあの感じが秘密基地っぽくて好きです。

古い日本建築と同じく古い機械も好きです。

繊維機械メーカーの多くはすでに廃業しているか繊維機械以外のものを生産していることが多く、撚糸や染色の加工場の方々はいわゆる骨董品のような機械を修理しながら使っていたりします。

もちろん最新の機械を保有している工場さんも中にはいます。

けれども多くは数十年にわたり同じ機械にメンテナンスを重ねながら使い続けています。

機械の修理には社長の人柄が出やすく、ホームセンターで買ってきた有り合わせのパーツで修理してしまう人、専門業者に頼んでパーツから作ってもらう人、中には修理をせずに不便な状態を無視して使い続ける人なんかもいます。

そういったところを見るだけでもその会社のものづくりへの姿勢が分かったりして、きっちりと機械を修理している工場を見るとこれまたワクワクしますし安心します。

延々と何の話をしているのかといいますと、最近アパレルや商社の客先様から繊維加工の現場を見たいというご要望を頂いてご案内することが増えております。

自分たちが企画している衣類が出来上がるまでに、どんな背景があってどんなストーリーがあるのかということも含めて顧客の方々に伝えていきたいという思いから現場に足を運ばれるのだと思います。

多くの場合、紡績・染色・撚糸・編みたての工場さんなどをご案内します。

お客様をお連れするにあたって工場の社長さんが「うちみたいな古くてぼろい工場を見てもらって喜んでもらえるだろうか」というようなことを言われるケースが多々あります。

自分たちの現場が華やかなアパレル業の方々にとってカッコよくないものだと感じておられる現場の方々はいまだに多く、謙遜や恥ずかしさでそう仰っているのだと思います。

けれども古い建物や機械を丁寧に修理しながら使っていることで伝わる信用というものもあると思いますし、それを見たお客様はたいていの場合好意的なリアクションをされます。

「なんかこういうのいいですね」とか「カッコいいです」とか、どこをどう評価するというよりも長年にわたって活動してきた現場に単純に感動してくれる人が多いです。

それはそれで十分なのだと思います。私自身も古いものが好きなのでシンプルに「カッコいい」と感じる気持ちは良く分かります。

けれども私自身はそれだけではなく、その古さが出来上がる商品のどこにプラスをもたらしているのかをもう少し詳しくお伝えするように心がけています。

「このパーツをこうアレンジしているところがこの工場のオリジナリティ」とか「この機械のこの部分を綺麗に掃除していることが安定した品質維持には重要」というような、各社の大事にしているポイントを、機械の修繕箇所やメンテナンスのポイントなんかを絡めて説明します。

実際、木造で土壁の撚糸工場はリネンのように湿度が糸の強度に影響する糸の加工に非常に適していますので、そういったことも「だから彼らに加工をお願いしているのです」という根拠としてお伝えするとすごく納得していただけます。

このブログでも最近良く書くことですが、日本のものづくりとかメイドインジャパンとか言う言葉の価値自体はどんどんと損なわれているように思います。

けれども道具や機械や建屋に愛着を持って大事にしていること、シンプルな機械に自分たちなりに少し改造を加えて独特な商品を生み出すその知恵やアイデア、機械を長年使いこなすことで見えてくる新たなアレンジなどは後発の国々に負けない強みの根拠になるのだろうと思っています。

反対に、日本の繊維業者がイタリアの老舗メーカーなどにどうしても勝てない部分もそこにあるのかもしれませんが。。。

それはともかく、

お客様を加工の現場にお連れするときには単に機械を見ていただくのではなく、機械の修理やアレンジ箇所などを見ていただくことを通じて、出来るだけその工場さんの積み上げてきた経験や歴史や強みをお伝えできればと思っています。

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