地味な技術を少しずつ高めていくという戦法。

毎年この時期になると春夏の糸の納品も一段落つき、そろそろ来年に向けた新商品の提案が始まります。

本来であれば春夏が終わると秋冬向けの生産が始まります。

しかしながら、(というべきか残念ながらというべきか、、、)当社は今のところ専ら春夏素材の糸屋なので、今期向けのデリバリーが終わるとすぐさま来期春夏向けの商品作りが始まるのです。

他社よりも半年先に春夏商品開発を始めることが出来るということをポジティブに捉えて、時間のかかる素材開発や技術開発などはよそ様が秋冬物を試作しているときから既に着手してたりします。

こんなサイクルで動いていると結果的にさらに春夏素材のバリエーションばかりが増え、いつまでたっても春夏の糸しか持っていない糸屋になって今に至るというわけです。

まぁ仕方がないですね、餅は餅屋です。

さて技術開発といいいましてもその分野は多岐にわたります。

紡績メーカーさんに依頼して原料からオリジナルでブレンドしてもらったり、染色工場さんに特殊な薬剤で糸を処理してもらって風合いを変化させたり。

もちろん強撚にしたりコード撚りにしたりといった撚糸のアレンジもあります。

複雑な撚糸構造の糸でありながらそれで編まれた商品が洗っても縮みにくかったり斜行しにくかったりする、というのは立派な技術開発だと思っています。

新規開発案件の中でも、その技術やアレンジがそのまま新商品を生み出す場合もあれば、地味で目立たないけれども大事な技術開発もあります。

たとえば糸巻きのテンションを均一に整えるための負荷のかけ方を研究したり、染色の仕上げ時に投入する柔軟剤の量を微調整したり、糸の滑りをよくして編み立て易くするためにワックスを新たに作ったり。

これらの技術は一見しただけでは糸に違いが現れないため、技術を高めていってもそれだけで目新しい商品を生み出すことはありません。

たとえば再生ポリエステルを使用したリサイクル糸というコンセプトやストーリーだけでいろんな新商品が生み出されています。

コットンとカシミヤをブレンドして限界ギリギリまで撚りを入れた強撚糸を作ったら珍しい風合いのものが出来ると思います。

けれども糸表面に均一にワックスを塗布する技術を開発したからといって、変わるのは編み立てがし易くなるという点だけで、実際に出来上がった服を手に取る購買者にとってはその違いは分からないと思います。

なので、同業の糸屋さんと話をしていてもそういった付帯技術のて研究開発を進めておられる所は少ないようで、ほとんどの方が仕入先や加工場さんに全てお任せにしているようです。

しかしながらこれら一見脇役に思われがちな技術は非常に重要で、コットンでもウールでもどんなものでもきれいに巻き上げられれば、この技術は自社の全ての糸の品質向上につながります。

同じくワックスを均一に塗布する技術を持っていれば、自社のあらゆる糸の編み立て性能を向上できるので、たとえば従来は編めなかった複雑な柄が編めるようになって販路が広がったりします。

なので、仕上げ工程や準備工程などの付帯技術を向上していくことは、斬新で目新しい素材を一点集中的に開発するよりも実は効果的だったりするわけです。

同じく付属の資材である糸巻きの紙管や梱包のケースのクオリティを上げれば輸送や編み立て時のトラブルを減らすことが出来て、結果的に自社商品の品質向上をアピールできます。

国会はモリカケ問題なんかでばたばたしていますが予算の審議は一応終わり、今期もまたものづくりだ技術開発だということで補助金や助成金の募集が始まりました。

これらの審査をする人たちは国や行政外郭団体の職員だったりします。

彼らは基本的に一般消費者目線なので、技術開発を行う側はそういった人たちが斬新で目新しいと感じるアピールをしないと補助金は受給できません。

そのため、かなり突飛でオーバースペック気味な技術開発を謳って壮大なスケールのサクセスストーリーを描いた(言ってしまえば嘘にまみれた)補助金受給申請書が作成されたりします。

そういった補助事業にたいして、糸作りの付帯技術にまつわる超地味な技術開発の資金を申請してもほとんど受理されません。

だって一見しただけでは商品の違いが分からないから。

けれども当社は地味なことをじっくり時間をかけて研究していきます。

編み傷が出にくいリネンであったり、濃色と淡色の風合い差や寸法差の少ない柔軟仕上げ方法であったり。

基本の技術を少しずつ日進月歩で磨いていく。

とある大阪の偉人が言った「小さなことからコツコツと」

結局はこれですよ。

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